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2012年2月17日

読書感想文

■『図書館戦争』や『阪急電車』などで人気の小説家、有川浩さんの作品に『シアター!』というシリーズがあります。題名の通り演劇の世界が舞台。東京で活動するある若手劇団の奮闘ぶりを、章ごとに各メンバーにスポットを当てて描いた、いわば『劇団群像ライトノベル』です。赤字に苦しんだり、後輩に嫉妬したり、恋の鞘当てがあったり・・・そんな『劇団あるある』的要素がふんだんに盛り込まれ、日頃芝居にたずさわっている人には特に面白い、あるいは身につまされる作品です。先日その二作目『シアター!2』を読んでいて、思わずニヤリとなる場面がありました■いま劇団は、ある期日までに相当な額の借金を返済する必要に迫られています。そのため、翌年の公演ではいつもより大きな劇場を借り、お客さんをたくさん集めて収入を増やそうとします。そこで劇団の主宰者である若者が、たまたまキャンセルが出たと噂に聞いたある有名な劇場に乗り込んで、劇場利用の交渉をするのです。ところが、その有名劇場、『テアトルワルツ』の支配人がめっちゃイヤなおっさんなんですよ■小さな劇団が招待状を送っても絶対観に来ない、観たことがないからどんな劇団か知らない、知らないところには貸せない、という無茶苦茶な論理。ウチは企業がメセナとしてやっているのだから、文化的に意義深い芝居でなきゃいけない。君らの芝居は観たことがないが、どうせ最近の若手に多い、面白いだけ、楽しいだけの軽い演劇だろう。今回は使わせてやってもいいが、ウチの劇場にふさわしい、深いテーマのある芸術的な作品にしてもらいますよ・・・みたいな、極端な上から目線なんです。ははは。

■この先、主宰の青年がどんな行動をとるかは物語を読んでいただくとして、艦長としてはニヤニヤしつつもわが身を振り返りましたね・・・。僕、こんなことになってないかいな?■・・・まあ、ABCホールはまだ開館して4年足らずと駆け出しの身で、テアトルワルツみたいに『あそこでやれば一流』みたいな格式も定評もありません。また、メセナ(芸術・文化の援護活動)精神のみで運営しているとは言い切れない部分もあります。無論、ここから素敵な劇団や俳優や芸人さんが巣立ってくれれば、個人的にもABCとしてもうれしい。けれどそこには、社会に利益を還元するという側面もさることながら、『売れたらウチの局をご贔屓にね』みたいな下心も少しはあるわけです。微々たるものですが、売り上げの問題だってありますしね。更に、こんなことを云うと身内から叱られるかもしれないけれど、『ただ面白く、ただ楽しい』放送番組というのは日頃作りたくてもなかなか作れないものです。大衆娯楽がコンテンツの大きな柱である放送局として、そういう『面白いだけ』の舞台作品を見下す資格など、当然全くないのです■しかし、です。自分に、このテアトルワルツの支配人のような面が全くないだろうか、全く?

■・・・うーん、実はちょっとはあるような気がする。ゼロではない、という程度ですけど■つまり、別に演劇に限らずお笑いでも音楽でもそうなんですが、『表現が、社会や世界と何かの形で繋がっていていてほしい』という思いがいつも僕にはあるのです(時々ここでもそういう意味のことを書いてきたと思います)。別に、たやすく言語化できるような『テーマ』とか『メッセージ』が必要だと云っているのではありません。むしろ、『テーマなんて豚に食わせろ!』ってつかこうへい流にいわれたら号泣するかもしれません。そうではなくて、その作品が『外部』とリンクしている感じ、換言すれば、観た人の人生観や世界観に少しでも影響を与える普遍性を有していてほしい、と思うのです。

■まあ、ちょっとたいそうなことを書きましたが、小さな芝居を観るのは大好きな性分なので出来る限り足を運びますし、映像資料を送っていただいたら必ず観ます。小説の中の支配人とは違ってめっちゃ腰の低いおじさんです。なので今後ともよろしくお願い致します■実を云うとね、妙に他人事とは思えなかったのです。『ABCホール』と『テアトルワルツ』、何となく名前が似ているような気がして。似てませんか?A・B・Cと、アン・ドゥ・トロワのワルツのリズムが・・・(艦長)

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