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キネマの天地

■なんか暑過ぎて頭ボーっとして、文章書くのもしんどいですよね■先週は、戸次重幸さん(TEAM NACS)の公演『totsugi式』が終わるのを見計らい、一心寺シアター倶楽さんにお邪魔して、つかこうへい追悼企画・伊藤えん魔プロデュース『蒲田行進曲』を拝見しました。まずは「熱血バージョン」。日を改めて「狂乱バージョン」。何とえん魔さん、キャスティングを換え上演台本もかなり違えた2バージョンを作られたんですね。暴挙であり快挙であります■『蒲田』といえば、スター俳優の銀ちゃん、その恋人の女優・小夏、銀ちゃんの子分の大部屋俳優・ヤス、の三人が織り成す屈折した愛の物語。クラマックスの『階段落ち』に向けて男と女が傷つけ合いながら精一杯愛し合う姿は、観る者の心を切なく絞めつけ、オリジナルの舞台は紀伊國屋演劇賞、つかさんが小説にすれば直木賞、映画化されればキネ旬1位に日本アカデミー賞作品賞他受賞無数...という、文句なしの名作です■今回、オーソドックス版ともいえる熱血バージョンでは、銀ちゃん・藤元秀樹、小夏・美津乃あわ、ヤス・行澤孝という、今年1月のABCホールプロデュース公演『レス』でお世話になった面々。『裏』版の狂乱バージョンは、ヤスは変わらず行澤さんなのですが、小夏役にアクサルのイケ面男優・田渕法明!そして銀ちゃんには何と伊藤えん魔!!というまさに狂乱のキャスティング。しかしどちらもすごく楽しませていただきました■つかこうへい事務所から送られてきた元の台本は優に3時間分はあったとかで、それを2時間弱の心地よい尺に整理し、同時に劇の構造を実にわかり易くかつ説明的にならずまとめ上げたえん魔さんの手腕は大したものだと感心しました。銀ちゃん役としてどうだったのか、その点だけは保留しつつ...(笑)■つか世代の艦長として以前にも書いたことがあるのですが、70年代に上演された、つかさんの本当につかさんらしい作品(あくまで僕基準でですが)は、ほとんど映像として(公式には)残っていません。まとまった作品として現在観ることが出来るのは、いずれも90年代以降のやや過剰に装飾的な作品群です。青春時代の神様に対して失礼を承知で云えば、それらは、つかさんが開拓した演劇の手法が一般化することによって、後に自分自身が陳腐化してしまった果ての姿というか...僕にはそう思えてなりません■その中で実は『蒲田行進曲』は、素晴らしい映画版の存在のおかげで、唯一70年代つか芝居の熱気に今でも触れることが出来る作品なのです。映画版では本当にスタジオに巨大な階段が作られ、本当にスタントの役者さんが『階段落ち』を演じたわけですが、もちろんオリジナル舞台版の『蒲田』には大階段なんてありません。今回のえん魔版にもそんなものはありっこない■でも...ここが小劇場演劇の楽しいところです。狭くて小さな舞台で、どうやって30メートルの階段落ちを見せるか。これが大劇場であれば、実際にセットの大階段を転がり落ちないとお客は納得できないかもしれない。...演出家と俳優に課せられた制約が、かえって作品への期待感を高めます。張り詰めた役者の肉体と照明・音響が一体となって描かれた今回のヤスの階段落ち、素敵でした!■そして何よりこの作品の一番の魅力は、光と影が交錯する映画撮影所の世界と、目の前の役者たちが生きる芝居の世界がオーバーラップするという、メタ構造にあるような気がします。だからこそ、です。京都・太秦の物語なのに、敢えてつかさんは『蒲田行進曲』と名づけたのではないかと思うのです。かつて松竹蒲田撮影所の所歌であった『蒲田行進曲』が持つ圧倒的な《前向きさ》を、作品の基調にしたかったのではないか、と。興味のある方は調べてみてください。ちょっとこそばゆくなるほど明るいその歌詞には、映画芸術への愛と夢が溢れています■歌に触発されて書かれたと思われる、僕のいちばん好きな台詞を最後に。

『だって、ここはキネマの天地ですもの。望めばどんな夢もかなうところですから』

 

                                                ...ええわぁ(艦長)

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