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2009年11月 6日

前向きの傾斜

■ただ今ホールは明日からの公演『jade版人生ゲーム』の仕込み真っ最中です。前売り券はすでに完売!当日券発売はキャンセルが出たときのみ、ということで開演5分前に判断とのこと。チケットないけど見たいという方は覚悟してお越しくださいm(__)m。

■さて先週木曜のことです。水・木と2ステだった劇団民藝さんの『らくだ』が終演してお客様の退館が終わった頃合で、主演の大滝秀治さんにご挨拶を、と申し出たら、『あ、もう病院に点滴受けに行っちゃいました』とのこと。いや、特にご病気ということではなく、体調維持のためだそうです。すごいなー。大滝さんの役は台詞も一番多いし、古典落語『らくだ』を題材にした作品ですから終盤には『かんかん踊り』を踊るシーンもあって、運動量もすごい。しかも今回の舞台セット、舞台の奥から客席に向かって床面に下りの傾斜が作ってあって、あれ結構役者さんの体力を消耗させるはずなんです。舞台の傾斜は、確かに奥行き感が強調され舞台全体を俯瞰で見せるという演出効果もあるし、お客様は見やすいし、よく使われる手法ではあるのですが■余談ですが能舞台も、橋掛かり(歌舞伎の舞台の花道にあたる橋状の通り道)には揚幕から本舞台にかけて上りの傾斜が、本舞台の奥から正面の客席に向かっては下りの傾斜が作ってあります。幕から舞台に向かうときには、上り坂をしっかり踏みしめながら気合を蓄え、舞台に乗ったらそのエネルギーをグワっと前へ!っていうことですかね。まあ橋掛かりに関しては、幽界と現実世界の境界であったり演出上いろんな使われ方をするので一義的な説明は難しいと思うのですが、でも何となく理にかなっているような気はします■そうでした、大滝さんのハナシです■私その時即座に、かなり前に見たNHKのドキュメンタリー番組のことを思い出しました。病と闘いながら旅公演を続ける劇団民藝の宇野重吉さんに密着取材した作品です。つまり大滝さんの先輩ですね■この旅公演で演じられていたお芝居は、たしか木下順二・作『三年寝太郎』だったと思います。名作とはいえ、小学校の学芸会でも演じられるような素朴な民話劇です。その主人公の怠け者の少年、寝太郎を、あの名優宇野重吉が、鼻の頭を赤く塗り、寸足らずの着物を着て熱演しているだけでもすごく面白かったのですが、衝撃的だったのは・・・■本番中、宇野さんが舞台袖に引っ込むたびに、すぐさま抱きかかえられるようにして座り込み、酸素ボンベを口に当てて吸入しながら、苦しげにあえいでおられる姿でした。・・・何というか、安易に言葉で表現したくないほどのショックを受けたのを記憶しています■人に見られるための『舞台』という仕掛け。見るために舞台の前で待ち構える観客。見られるためにそこに向かう俳優・・・。なんかね、大袈裟かもしれませんが、『人間ってなんでこんなことに必死になるんやろー?』っていう思いです。その答えを見つけるためにみんな頑張るんだと思いますけどね。

■またちょっと話はズレますが、『頑張る』こともほんとうは間違っているのかもしれない。まさに『三年寝太郎』のように、日本には古来、怠け者が人々を助ける、あるいは大金持ちになって成功する、というお話がいくつかあります。怠惰をこっそり礼賛する文化というか。『果報は寝て待て』、『世の中に寝るより楽はなかりけり 浮世の馬鹿は起きて働く』なんて言い草もあります。それは、働いても働いても報われない現実に対する、明るい抗議としての寓話なのかもしれませんが・・・(艦長)

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