スタッフブログ
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スタッフの雑記

この鬱陶しさを笑いで吹っ飛ばせ、なんて

■大阪はまたゲリラ豪雨です。しかも社内は節電で蒸し暑く薄暗い。宝くじのCMで西田敏行さんの歌を聞くと、なんだか胸が締め付けられるような気持ちになる・・・。今年の夏は特別なんだなぁって■さて、ピースピットから続く夏の怒涛シリーズですが・・・ものすごくきれいな女優さんがいっぱい出演して、不条理で、やるせなくて、「あー今日俺演劇観たぞー!!」って気にさせてくれるなんともかっこいい集団、阿佐ヶ谷スパイダースさんは昨日深夜にお帰り■今日から日曜まではうって変わって(?)東京03の三人が登場です。いいなー、東京03。キャラクターがしっかり描かれシュールだけれど確実に笑える、ちょっと演劇的なコント集団ですね。ご存知キングオブコントの第2代チャンプです■当日券アリ。雨に降られるか否かはこの際カケ、さあABCホールへ飛び出してみましょう!

第12回 東京03単独公演

東京031108.jpg 『燥ぐ、驕る、暴く。』 

8月5日(金)         19:00

   6日(土)  13:00  17:30

   7日(日)  13:00  17:30

   ※当日券は開演30分前に発売

   

 

千穐楽

あぢ■6月めちゃくちゃ暑く、梅雨が明けると妙に涼しい日が続いていた今年の夏ですが、7月最後の今日は夏らしい熱気がリバーデッキを包み込んでいます。そういえば海水浴って長いこと行ってないなあ。近くに防波堤があって、沖を漁船が通って、時々クラゲに刺されて、岩場で足を切ったりもして、よしず張りの海の家で真っ赤なカキ氷を食べて、どうしても同じおねえさんの水着姿に目が行ってしまう、あの日本の海水浴■楽しかったような楽しくなかったような、しゃーけど、懐かしいなあ・・・。

■ピースピット『極楽百景亡者戯』、本日千秋楽です■こじんまりしたABCホールの空間に建てられた仏壇を思わせる重厚な舞台装置、ゴールドで統一された絢爛な衣装、和田俊輔さんによる変幻自在な楽曲、それらに力を得て多彩な役者陣が演じる、歌舞伎の名シーンのパロディをちりばめたギリシャ神話風の骨太なファンタジー・・・!!あらゆるエンターテインメントの要素をぶち込んだ、休憩込みの2時間半。お得です。実はこの『休憩』、本番直前に急遽追加されたらしく本来は一幕ものだったはずなのですが・・・何故そうなったかは、ご覧になると分かります■お風呂もシャワーもない当ホールで、まさかあの地獄を演るなんて・・・!!(艦長)

しあわせって・・・

■昨夜とっても嫌な光景を見てしまいました。夜10時過ぎ、帰りの電車の中。中年男女がドアのそばに立っていました。年格好から夫婦のようにも見える。しかし一切会話はなく視線を合わすこともない。「ひょっとしたら他人なのかな?しかし」...僕が何となく気になっていたのは、女性の方は尋常じゃなく疲れた感じで、時おり耐え切れない風にその場にしゃがみこんでいたからです。男性の反応は一切ありません。でも普通赤の他人のすぐそばで大の大人、しかも女性がしゃがんだりしないよなあ...■やがてほんのわずか事務的な会話が交わされ、やはり二人は連れと判明。そして、小さな衝撃はその後やってきました。近くに座っていた女性が、しゃがみこんだ彼女を見かねて立ち上がり、席を譲ろうとしたのです。しかし彼女は無言で手にしたハンカチを振り、「結構です」という意思表示。僕が驚いたのは、その時も、男性が全く無反応だったことです。普通云うよねー、彼女の代わりにお礼くらい。結局空いたままの席が二人の虚ろな心を象徴しているようで...なんだろう!?絶対しあわせじゃないよね、この夫婦■暑苦しいときに不愉快な話題ですみません。さて!

EARTH&PEACE.jpg■今日は、ダンスユニット・jadeのチャリティ公演『EARTH&PEACE』。50人を超えるピチピチのダンサーが今本番の最終チェック中です。前売り券は完売、料金の中から1枚につき500円が被災地復興の一助として寄付されるそうです。素晴らしい!■今回の恐ろしい災害の中でほんのわずかでも希望の光を見い出すとすれば、私たちがちょっと忘れかけていたかもしれない『助け合い』の心を、日本人みんなが思い出したことかもしれません。

■ABCでは、『東日本大震災 ABC子ども支援募金』をスタートしました■このサイトから、素敵な歌を聴くことができます『しあわせ運べるように』1995年、神戸の小学校で音楽を教えていた一人の先生が、阪神淡路大震災の絶望の中で、神戸の町がよみがえることを願ってお作りになった歌です。いまその歌を神戸の子どもたちが歌い、東北に届けます。動画がいいです。是非一度ご覧ください■ちょっと泣きました(艦長)

七月の憂鬱

■毎年今頃になると、TVのニュースを見ていて憂鬱になることがあります。原因は、「ほ」と「ぼ」の違いです■関西のローカルニュースで、この季節の大定番といえば京都の祗園祭の話題です。7月頭から月末まで、様々な神事が行われる大規模なお祭りですが、何といってもクライマックスは、7月17日、合計32の山と鉾が京都の町の中心部を行進する『山鉾巡行』。日本中のあらゆる祭の中でも、屈指の有名行事といってよいでしょう■ところがこの『山鉾巡行』の読み方が、実は一定していない。テレビやラジオのニュースでもまちまちなのです。放送局によって長年の間に定まった方針があるようで、たとえば、NHKは『やまほこじゅんこう』、朝日放送は『やまぼこじゅんこう』。「ほ」と「ぼ」の勢力は拮抗している感じです。ちょっと不思議なのは、朝日新聞では記事中わざわざ、『山鉾(やまほこ)巡行』と読み仮名を振っていることです■代表的な国語辞書である広辞苑を引いてみると、「やまぼこ」という項目しか存在しません。また、「山」の項を引くと、後ろのほうに「山鉾(やまぼこ)の略」と書いてあります。しかし後述する理由から、この件に関しては広辞苑は結構アバウトであると思われます■以下は個人的な見解です■日本語には連濁といって、複合語の後の部分に、カ行・サ行など濁点がつけられる文字で始まる言葉が来るとき、濁ることがあります。「草」と「花」で「くさばな」、「山」と「小屋」で「やまごや」などですね。山鉾が「やまぼこ」になるとすればこのためです。しかし連濁にはルールがあって、前の語が後の語を修飾していなければならないのです。「草に咲く花」、「山に建てられた小屋」のように。ところが、少なくとも京都・祗園祭の山鉾巡行における「山鉾」とは、「山のような鉾」ではありません。山と鉾は明確に区別された別物です。現在、山が23基、鉾は9基、鉾の方が大型で、天に向ってそびえる飾りがある。だから「山鉾」は「山と鉾」という同格的な表現で、連濁は起こらないはずです。よく、「山鉾が『やまほこ』なら、蒲鉾は『かまほこ』かい?」なんて云う人がいますが、関係ありません■要するに、こと京都の祗園祭に限って云えば、『やまほこ巡行』が妥当なんじゃないのかなあ、と、僕は考えるのです。実は、だいぶ前に当社のアナウンス部幹部とちょっとだけ議論したのですが、聞き入れてもらえませんでした(笑)■では、肝心のお祭りの当事者はどう考えておられるのでしょう?・・・実はこれが大変複雑なようで、『特にどちらとは決めていない』ようです。祗園祭は何百年もの間、京都の町衆がボランティア精神で支えてきた祭りです。各町内で昔から慣わしとなっている呼び名があり、今更それを上から統一することは困難なのではないか、と推察します。それはそれで立派な姿勢だと思います■さて、大変おめでたいことなのですが、一昨年この行事がユネスコの無形文化遺産に登録されたそうです。ついては、公式に英文表記をする必要が発生し、これについては一応、『Yamahoko』とすることでまとまったとのこと■ふう、難しい...(艦長)

とまと

■安井牧子一人芝居『IRODOЯI~浅葱色~』、本日18:00からのたった1ステ、まもなく開演です■ABCホールでは初めてですが、安井さんは毎年、トークや一人芝居を構成したソロライブ活動をされているとのことで、今回は短編の一人芝居が3本というオムニバス形式。しっとりとした大人の女性が様々な役を大胆に演じ分けるわけですが、前売り券は完売、当日券もないということで、手に入れ損なったファンの方々はさぞ悔しい思いをされてることでしょう。■このIRODOЯIというタイトル、今気づいたのですが、回文になっているんですね。アルファベットの回文。ローマ字・Rのあとにキリル文字・Яが使われているのは、視覚的な対称性も狙ったものでしょうか。実は、ЯはRとは全く起源が違う文字なのだとか。でも、アメリカからやってきた巨大なおもちゃ屋さんのロゴにもRの代わりにЯが使われていたりするので、国際的に通用するアソビなのでしょう■さて、回文といえば、かつて土屋耕一さんという高名なコピーライターが回文集を出版された時の驚きが記憶に残っています。題名が『軽い機敏な仔猫何匹いるか』。この表題作に代表される、いかにも最先端の広告人らしい軽やかな言葉遊びに、当時思春期だった僕はすっかり憧れてしまいました。『竹やぶ焼けた』くらいしか知りませんでしたからねー(艦長)

ニュースの言葉

■原子力発電の是非についての論争が渦巻く中、九州電力の『やらせメール』事件が世間を騒がせています。佐賀県で行われ、インターネットやケーブルテレビで中継された玄海原発運転再開の是非を考える説明会において、九電幹部が、再開を支持するメールを送るよう社内及び関連会社に指示した、という事件です■お、艦長ブログ、ついに原発問題に言及か!?・・・そうではありません。艦長があずかるサブマリン707は、海上ではディーゼルエンジン、潜航中は蓄電式のモーターを推進力とする通常型なのでね。

■僕が変だなあと思うのは、この事件についてほぼすべてのメディアが『やらせメール』という言葉を使っていることです。え?『やらせ』って、こういうことだっけ?■主にテレビを中心とするメディアで使われる『やらせ』とは、『制作者(情報発信の主体)が、自分たちの意図に沿うようなコメントや映像を捏造すること』だと思います。《情報番組で、若者たちの奔放な生態の映像が欲しいので俳優を使って撮影する》とか、《街頭インタビューで、欲しい回答をあらかじめ知り合いにお願いしておく》、とかですね。あくまで、『この番組でこんなことを表現したい!!』という制作者の熱意が誤った方向に行ってしまった果ての不正行為だと思うんですね。元々が業界内の俗語ですから辞書に詳しく載っている言葉ではないのですが、間違っていない筈です■ところが、今回、この催しの主催者は国(経産省)です。テレビやネットは現場の模様を流しただけ。不正を行った電力会社は、当事者ですが番組(催し)の制作者ではありません。今回の行為はたとえば、人気投票で上位になりたいタレントが、友人や親戚縁者を通じて組織票を依頼した・・・みたいなことじゃないでしょうか?いや勿論、原発を取り巻く状況の深刻さを考えれば、行為自体は許されることではありません。しかし■なぜ僕がこんなことを気にしてしまうかというと、ちょっと次元の異なる話ではあるのですが、TV番組を作る現場において、何がやらせで、何がやらせでないか、は実際とても難しい問題だからです■例えばこんなケースはどうでしょう・・・《悪天候のために現地に着くのが1日遅れ、年に一度だけ行われる村の珍しい儀式の模様が撮影出来なかった。そこで村人にお願いして寸分違わず再現してもらい、それを撮影して素晴らしい紀行番組が完成した》・・・これは文字通りの『やらせ』です。しかし絶対に許されないことでしょうか?難しい問題だと思いませんか?「これは儀式を再現してもらった時の映像です」と説明をつけて放映することは出来ますが、視聴者の感動は薄れるでしょう。あるいは、《3日間の予定で離島に大物釣りの撮影に行ったら、初日竿を出すなり超大物が釣れてしまい、その後釣果はサッパリだった。大物が釣れたシーンを番組終盤のクライマックスに持ってくるために、撮影したシーンの順番を入れ替えて編集した》・・・出演者のコメントの使いどころやナレーションに気をつければ、この程度のことは技術的には簡単です■明らかに事実と異なる内容をでっち上げるのは言語道断です。しかし、誰も傷つけることなく、人々の知る権利、社会正義の実現、あるいは優れた娯楽作りに貢献できるとすれば、いったいどこまでの演出が許されるのか?その判断基準は当然、番組のジャンル・立ち位置によっても微妙に変化します。メディア関係者はいつも、揺れ動くグレーゾーンの中で悩みながら仕事を続けているのです(僕は上の2つの事例を無条件に是とするわけではありません、念のため)■えーと、端的に云うとですね、日頃から『やらせ』あるいは『過剰な演出』の問題について厳しい監視の目に晒されているテレビ始め各メディア関係者は、『やらせ』という言葉についてもっと神経質になるべきではないか、と思うのです■しかしまあ、九電が関係者に『やらせ』たわけだから別にいいのか??でもなあ...(艦長)

笑って!

■社内の照明が暗くなりました。空調の設定温度が高くなりました。ちょっと暗くて、暑い夏の到来です。いまホールでは、朝日チャリティー落語会の上演中。米朝一門の豪華メンバーが登場し、場内は笑い声に包まれています。こんな時こそ笑いは大切です■そういえば、舞台・映画・テレビの世界の用語で、『わらう』というのがあります。舞台上や画面の中の不要なモノをどかして片付けることです。なぜ「わらう」というかは諸説あるようでよくわかりません。でも何となく明るくて好きな言葉です。大抵は演出家やカメラマンが『それ邪魔だからわらってくれる?』とスタッフに指示する際に使うわけですが、『邪魔や、どけて!』というより場が和みます(・・・言い方やん)。ともあれ僕はもう30年以上この世界にいるので、『わらう』は身に染みついているのです■対して、最近よく耳にするようになったけれどどうも馴染めないのが、『かたす』という言葉です。意味は『わらう』と殆ど同じです。『片隅に寄せる』みたいなニュアンスらしいですね。若者の新語かな、と思っていたのですが、東日本の一部で昔から使う言い回しのようで、広辞苑など辞書にもしっかり載っている言葉だと知って驚きました。でもねぇ...。かたす...かたす...やっぱり一生馴染めそうにないなあ(艦長)

キネマの天地

■なんか暑過ぎて頭ボーっとして、文章書くのもしんどいですよね■先週は、戸次重幸さん(TEAM NACS)の公演『totsugi式』が終わるのを見計らい、一心寺シアター倶楽さんにお邪魔して、つかこうへい追悼企画・伊藤えん魔プロデュース『蒲田行進曲』を拝見しました。まずは「熱血バージョン」。日を改めて「狂乱バージョン」。何とえん魔さん、キャスティングを換え上演台本もかなり違えた2バージョンを作られたんですね。暴挙であり快挙であります■『蒲田』といえば、スター俳優の銀ちゃん、その恋人の女優・小夏、銀ちゃんの子分の大部屋俳優・ヤス、の三人が織り成す屈折した愛の物語。クラマックスの『階段落ち』に向けて男と女が傷つけ合いながら精一杯愛し合う姿は、観る者の心を切なく絞めつけ、オリジナルの舞台は紀伊國屋演劇賞、つかさんが小説にすれば直木賞、映画化されればキネ旬1位に日本アカデミー賞作品賞他受賞無数...という、文句なしの名作です■今回、オーソドックス版ともいえる熱血バージョンでは、銀ちゃん・藤元秀樹、小夏・美津乃あわ、ヤス・行澤孝という、今年1月のABCホールプロデュース公演『レス』でお世話になった面々。『裏』版の狂乱バージョンは、ヤスは変わらず行澤さんなのですが、小夏役にアクサルのイケ面男優・田渕法明!そして銀ちゃんには何と伊藤えん魔!!というまさに狂乱のキャスティング。しかしどちらもすごく楽しませていただきました■つかこうへい事務所から送られてきた元の台本は優に3時間分はあったとかで、それを2時間弱の心地よい尺に整理し、同時に劇の構造を実にわかり易くかつ説明的にならずまとめ上げたえん魔さんの手腕は大したものだと感心しました。銀ちゃん役としてどうだったのか、その点だけは保留しつつ...(笑)■つか世代の艦長として以前にも書いたことがあるのですが、70年代に上演された、つかさんの本当につかさんらしい作品(あくまで僕基準でですが)は、ほとんど映像として(公式には)残っていません。まとまった作品として現在観ることが出来るのは、いずれも90年代以降のやや過剰に装飾的な作品群です。青春時代の神様に対して失礼を承知で云えば、それらは、つかさんが開拓した演劇の手法が一般化することによって、後に自分自身が陳腐化してしまった果ての姿というか...僕にはそう思えてなりません■その中で実は『蒲田行進曲』は、素晴らしい映画版の存在のおかげで、唯一70年代つか芝居の熱気に今でも触れることが出来る作品なのです。映画版では本当にスタジオに巨大な階段が作られ、本当にスタントの役者さんが『階段落ち』を演じたわけですが、もちろんオリジナル舞台版の『蒲田』には大階段なんてありません。今回のえん魔版にもそんなものはありっこない■でも...ここが小劇場演劇の楽しいところです。狭くて小さな舞台で、どうやって30メートルの階段落ちを見せるか。これが大劇場であれば、実際にセットの大階段を転がり落ちないとお客は納得できないかもしれない。...演出家と俳優に課せられた制約が、かえって作品への期待感を高めます。張り詰めた役者の肉体と照明・音響が一体となって描かれた今回のヤスの階段落ち、素敵でした!■そして何よりこの作品の一番の魅力は、光と影が交錯する映画撮影所の世界と、目の前の役者たちが生きる芝居の世界がオーバーラップするという、メタ構造にあるような気がします。だからこそ、です。京都・太秦の物語なのに、敢えてつかさんは『蒲田行進曲』と名づけたのではないかと思うのです。かつて松竹蒲田撮影所の所歌であった『蒲田行進曲』が持つ圧倒的な《前向きさ》を、作品の基調にしたかったのではないか、と。興味のある方は調べてみてください。ちょっとこそばゆくなるほど明るいその歌詞には、映画芸術への愛と夢が溢れています■歌に触発されて書かれたと思われる、僕のいちばん好きな台詞を最後に。

『だって、ここはキネマの天地ですもの。望めばどんな夢もかなうところですから』

 

                                                ...ええわぁ(艦長)

四畳半の宇宙

■先週末は僕にとって重要な舞台を二つ鑑賞させていただきました。石原正一ショー「熱海殺人事件」(一心寺シアター倶楽)、そしてもちろんイキウメ「散歩する侵略者」(ABCホール)、です■「熱海殺人事件」は、昨年亡くなったつかこうへいさんの初期の作品にして生涯の代表作。小説や映画になって賞を総なめにした「蒲田行進曲」の方が世間的知名度は上かもしれませんが、つかファンの間で作品の人気投票をすれば、「熱海」の断然1位は間違いないでしょう。73年初演。平凡な殺人事件の背後に潜む社会の矛盾・庶民の切ない心情を暴き出して犯罪史上に残る大事件に仕立て上げるべく、刑事と容疑者が団結して奮闘するというお話。シンプルにして骨太、圧倒的な量の笑いと痛烈な告発のメッセージ・・・時代とのリンクもあって最高にかっこよかったんです■しかも、男3人、女1人の出演者と、机2つに椅子3つさえあれば上演できるため、当時の若い演劇者たちは猫も杓子もこの作品を演りました。例えば、80年代から活躍を始めた関西を代表する4つの若手劇団・・・劇団そとばこまち、劇団新感線、劇団M.O.P.、シュン太郎劇団・・・旗揚げ公演はすべて「熱海」だったのです。80年代関西の小劇場運動はつかこうへいのコピーから始まったといっても過言ではありません■つかさんは90年代以降、「熱海」を様々なスタイルに改変して上演します。主役の部長刑事が女性になったり、ゲイになったり...。しかし今回のつかこうへい追悼企画第一弾「熱海殺人事件」はどうやらオリジナル版をやるらしい。そとばこまちOBである石原さんは、先輩たちの「熱海」にずっと憧れてきたのだから。そうこなくっちゃ!客電が落ちる前に流れ出す白鳥の湖「情景」で、昔みたいにおしっこチビらせてもらいたい!(・・・ちょっとテンション上がっちゃってすみません)・・・そんなノスタルジックな気分満載で劇場に足を運んだオールドつかファンの期待に違わぬ、それは『懐かしの熱海』でした■そして「散歩する侵略者」。2005年初演。SF的設定の中で人間の本質をえぐる作風で注目される前川知大さんの代表作■隣国との戦争の危機が迫る日本の小さな港町に、3人の宇宙人が降り立つ。人間に取り憑いた彼らは、出会った人々からあるものを奪い続ける。それは、「家族」、「所有」、などの『概念』。・・・それは確かに重大な喪失なのですが、同時に、奪われた人たちに結果としてある種の解放がもたらされる、という描写が深く心をえぐります。奪う者と奪われる者が織り成す奇妙な群像悲喜劇。終幕近く、宇宙人が憑依した夫と、夫の変容によって不思議な安らぎを感じるようになった妻との間で行なわれる、ある概念の移動のシーンが感動的です■再々演となる今回、3月の大震災を踏まえた改訂を経て、より危機感が切実に浮き彫りにされたといいます。ゼロ年代日本演劇を代表する作品のひとつなのではないでしょうか■執筆時期にして30年を超える隔たりをもつこれら二つの作品、僕には大きな共通点があるように思われました。《閉ざされた空間に、ある大きな不条理を持ち込むことによって人間の本質を炙り出す》、という仕組みです。《劇的な事件でないと捜査に値しない、とゴネる刑事》、《概念を奪う宇宙人の襲来》■「熱海殺人事件」と「散歩する侵略者」は、まったく次元の違う設定を持ち、テイストの異なる作品です。しかしいずれも、『大きなものについて語ろう』、という情熱を共有していると感じるのです。まあ、これは当たり前といえば当たり前なのかもしれません。でも今回僕は改めて思ったのです。「座布団の上に無限の世界が広がる」と形容される落語と同様、舞台という極端に狭苦しくて不自由な空間だからこそ、演劇は、広大な世界と関わるための翼を獲得して、そこに臨まなければならない、と■翼とは、例えば片方がテーマであり、もう一方が手法です。わ、かっこいいい(艦長)

売込隊ビーム様、スクエア様 

■梅雨がやってくる前の、一年で一番過ごしやすくて素敵な季節ですが、今日はどんより曇り空。けど紫外線は強いんですね。ホールのロビー・・・(正式にはお洒落に『ホワイエ』というらしいですが、最近はもう僕ロビーで通してます。伝わりにくいんだもん)・・・から堂島川にかかる玉江橋を眺めると、お肌のケアに敏感な女性は、曇り空でもしっかり日傘を差しておられます。もうすぐ夏だなあ・・・。今年は節電の必要から各企業で例年以上にクールビズが奨励されるようで、服装の面からも夏の訪れが一層早く感じられるかもしれません■さて、先々週が売込隊ビーム、先週がスクエアと、関西を代表する劇団の公演が続きました。ABCホールにとってもお馴染みさんだったので、のんびりしつつもちょっぴり淋しい今週です。今、スクエアさんのホームページで打ち上げの写真を見ていたところ。楽しそう■『芝居は打ち上げのためにある!』と豪語(?)する演劇関係者もいますが、あらゆる飲み会の中で芝居の打ち上げが一番楽しいのではないか、と僕も思います。何十日間も苦楽を共にしてひとつの作品を作ってきて、全てが終わった夜ですからねえ■西麻布の高級バーのVIPルームでモデルやタレントの美女を大勢侍らせて高級シャンパンをポンポン開けるより、居酒屋で思い思いに車座になって焼酎を飲みながら芝居の話をする方が幸せ。まあ前者は経験がないので想像ですけど。しかしそんな時間にも劇団の「制作」さんは、全員が気分よく過ごしているか、飲み放題の終了時間まであと何分か、など気配りの鬼であり続け、自分がゆっくり飲めるのはきっと3次会あたりなのですが・・・■さて、艦長もここ2週、打ち上げへのお誘いをいただいたのですがどちらも遠慮してしまいました。売込隊ビームさんの時は、充電前最終公演の打ち上げということで、なんだか部外者がいるのは憚られるような気がしたので。スクエアさんは・・・月曜夜公演のバラシ終了後(ものすごく速かったですけど)の開宴だったので、すぐに終電の時間だったんですよお・・・自宅が京都なもんで。朝まで付き合います、って言われましたがトシなんでねぇ・・・。申し訳ありませんでした■そういえば数年前、やはり某劇団さんの打ち上げを辞退したことがあって、『会場が大衆焼肉店だったから艦長は行かなかった』(笑)という噂が立ち、その次の公演の時、高級焼肉をお相伴させてもらいました。あの時はご馳走様でした■いや、本当は、僕、観劇直後にお芝居の感想云うのホントに苦手なんですよ。特に褒めるのが。感想が言語として定着するのに少し時間がかかるのです。申し訳ありません。悪気はないし、損な性分だとも思います■あのー、売込隊ビームもスクエアもすごくよかったですよ!!ビームさんは、最終公演でも敢えてお祭り的にしないで、これまでのビームらしい静かで毒々しい笑いに徹したこと。スクエアさんは、やはり「らしさ」全開の上質なドタバタシチュエーションコメディ、しかもちょっとドキュメンタリー。この場を借りて賞賛させていただきます。いやほんと、さすがのご両所でした■次回は乾杯だけ、参加させてください。そしてぎこちなく感想言わせていただきます(艦長)

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